乞食とまんじゅう(商売冥利)
ある町に老舗の立派なお菓子屋さんがありました。
そこにある日、一人の乞食がまんじゅうを一個買いに来ました。
その店の小僧さんはまんじゅうを一個包んだのですが、渡すのを躊躇しました。
そこへお店のご主人が声をかけました。
「それは私がお渡ししよう。」
ご主人はまんじゅうの包みを自分で乞食に渡し、代金を受け取ると
「ありがとうございます。」といって、深々と頭を下げました。
小僧さんはご主人に尋ねました。
「いつもお客様にお菓子を渡すのはたいてい私(小僧さん)でした。
なぜあの乞食にご主人自ら渡されたのですか?」
ご主人は答えました。
「いつもうちの店をひいきにして下さるお客様はみなお金のある立派な人や
だからうちに来られても不思議はない。
だがあの人は、いっぺんこのうちのまんじゅうを食うてみたいということで
自分の持っている一銭か二銭のいわばなけなしの全財産をはたいて買うて下さった。
こんなありがたいことはないではないか。
これが商売冥利というものなのだ。」
パナソニック 松下幸之助創業者の著書「商売心得帖」の一節です。