十字軍物語(1)(2)
塩野七生『十字軍物語(1)(2)』を読みました。
学生の頃、世界史の授業で習った無味乾燥な十字軍の遠征ですが、
本書では将兵の生き様が鮮やかに書かれていて大変興味深く読むこと
ができました。
長くイスラム教徒の支配下にあったイェルサレムの奪還を、法王
ウルバン二世は呼びかけます。これに応じたドイツやフランスの諸侯
(日本で言えば大名)が主体となった第一回十字軍は苦難の末、
聖都を攻略しイェルサレム王国他の十字軍国家を打ち立てます。
この攻略の原動力は、十字軍のリーダー達の強烈な意志でした。
彼らは領主の二男、三男といったいわば部屋住みの身分でしたが、
「神はそれを望んでおられる」のスローガンの下で難事を乗り越えて
聖都奪還の目的を果たします。
聖都攻略後、キリスト側は一転して守勢に回ります。四方を敵である
イスラム勢力に囲まれ、常に兵力不足に悩みます。この苦境を救うため
第二回十字軍が派遣されますが、あっけなく失敗に終わります。
イスラム側の優れたリーダーに対抗できる人材は少なく苦境に
立たされます。最終的に大軍を率いるイスラム側のサラディンに
イェルサレムを奪回されてしまいます。
しかし、キリスト側はなすすべもなく敗れたわけではありませんでした。
強烈な意志で聖都防衛にあたったリーダーがいました。
イェルサレム王であったボードワン4世です。
彼は若くして王位についたのですが、不幸にして癩病を
患っていました。病は次第に進行し、銀の仮面をかぶり馬の鞍に
身体を縛り付けて指揮をとります。王の気迫に動かされた将兵や宗教
騎士団の騎士達は、圧倒的に寡兵でありながら必死に王を支えます。
イスラムのリーダーであるサラディンをして「何が彼らをあれほどまでに
勇敢に戦わせるのか」と言わしめます。
苦境に立ったとき、リーダーの真価が問われます。いざというときに、
強烈な意志をもって踏ん張れるメンタリティこそ騎士道精神と
いえるのでしょう。